・ツーリングカーレースとは?・

車のレースは大まかに分けるとFormula car とTouring car に分けることが出来ます。 フォーミュラカーはF1のような一からレース専用に作られた車のことを指し、ツーリングカーは 市販の乗用車をベースとして、それをレースしように改造作られた車のことを言います。元々、 元祖をたどれば市販車に改造を施して、公道を閉め切ってコースを作り、レースを始めたのがレ ースの始まりだったので、モータースポーツの起源はツーリングカーレースだとも言えます。 ツーリングカーレースではほとんどの場合、ベースに使う車は、年間数百台〜数千台生産された車でないと いけない…と言うようなルールがあり、あまり特別なレース専用のスペシャルモデルを生産・使用すること も禁止しています。 フォーミュラカーはレース専用車ですから、一般的にはあまり馴染みのない車しかレースに出ていませんが 、ツーリングカーはベースが市販車ですからより親しみやすいレースであると思います。



・ツーリングカーの今・昔・

先に書いたように、より親しみやすく、一般的なモータースポーツであるツーリングカーレースですが、自 動車大国日本では、あまりモータースポーツの主流ではありません。1970〜1980年頃まで戻ると、 国内でもツーリングカーが非常に盛んだった頃がありました。バブルの好景気とマイカーブームによって車 への興味や、購入意識、改造・チューニング等の文化が広まり始めたのと同時に、カーレースの人気も高ま っていきました。その中でも、ツーリングカーレースは身近な車をベースにしている事が人気を博し多数 のレースが行なわれました。 当時は現在ほど細かいルールやクラス分けがなかったとは言え、国内のほとんどのメーカーが参加し、そこ で活躍したマシンは一般市場でも人気の車になり現在に至っても、いまだに"名車"として人気の車もありま す。




現在の国内ツーリングカーレースの最高峰はスーパーGTと言うレースです。その中の上位クラスであるGT500 クラスには、トヨタ・ニッサン・ホンダの3メーカーのみが参加しています。世界最高峰のツーリングカーレ ースの一つに数えられるように、そのレベルは非常に高く、数多くの技術が盛り込まれたハイテクマシーン によって競われています。しかし、それと同時にマシン開発にかかるコストが急騰してしまい、大メーカー が支援するチームしか参加することが出来なくなりました。確かに、モータースポーツとしてにレベルは高 くなりましたが、一般的で親しみやすかったツーリングカーレースは、段々閉鎖的になってしまいました。 このスーパーGT以外のレースに目を向けると、いくつか入門向けのレースはあるのですが、そこから上への 道がちゃんと確立されていません。こう言うこともツーリングカーレースが盛り上がらない原因の一つだと 思います。



・ヨーロッパのツーリングカー・

日本では今ひとつ盛り上がりに欠けるツーリングカーレースですが、本場ヨーロッパではかなりの盛り上が りを見せています。昔、ヨーロッパでも一時期ツーリングカーレースの人気がなくなってしまった時期があ りました。車メーカー直系のワークスチームの戦いが激しくなり、コストが上がり、参加チームが減り、レー スの数が減ってしまったのが原因でした。現在は、レギュレーションが変わり、以前よりもコストを抑えた マシンで戦われています。ヨーロッパのツーリングカーレースは、何と言ってもバトルの激しさが売りです 。軽い接触も気にせず、平気で2台3台の車が並んだままコーナーへ進入していく、そんな熱い戦いが毎周、 毎コーナーで繰り広げられます。そんな熱い戦いを楽しみにして、たとえトップカテゴリーのレースでなく ても観客の人々がたくさん訪れ、いつもサーキットは大盛り上がりだそうです。こう言うイギリスなどのヨ ーロッパの国々での、モータースポーツと一般の方々との距離感は日本に大きく欠けている部分だと思いま す。もっとモータースポーツを各方面に情報発信して"広めよう"とする気持ちが必要なのではないかと思い ます。
そしてヨーロッパのツーリングカーレースは、近年新たな取り組みをスタートさせています。それは、環境 に配慮したマシンによるレースです。すでに、イギリス国内ツーリングカー選手権(BTCC)と世界ツーリング カー選手権(WTCC)ではディーゼルエンジンを搭載したマシンが出場しています。スウェーデン国内ツーリン グカー選手権(STCC)でも、バイオエタノールを使用したマシンが活躍しています。また、世界的に有名な耐 久レース、ル・マン24時間レースでも、ここ2年続けてディーゼルエンジンを搭載したマシンが優勝して います。どの車も”環境に優しいだけじゃなく性能も良く”レースでも良い結果を出しているのが特徴です 。



・車社会とモータースポーツ・

こう言った”環境に配慮したレース”はヨーロッパの、しかもツーリングカーレースから産まれた物です。 何となく、フォーミュラカーの方が技術レベルが高いマシンのように感じられますが、こう言った部分では むしろツーリングカーのほうが一歩先を行っています。フォーミュラカーレースにはない、ツーリングカー レースのアイデンティティーとも言えます。 レースの世界に限らず、ヨーロッパの国々では高性能ディーゼルカーが増えてきています。昔はディーゼル エンジン=デカい・重い・うるさいと言うのが当たり前でしたが、近年、技術が進歩した事で軽量、コンパ クトで音も静かなエンジンを作ることが出来るようになり、その分、出力を上げパワー的にもガソリンエン ジンと差がないようになりました。ディーゼルエンジンの良さは、何と言っても二酸化炭素の排出量の少な さです。ガソリンエンジンと比べて、消費燃料は約3割、排出CO2量は約2割少ないと言われています。エ ンジン出力をより出せるようになった現在、同じパワーで燃料消費量・排出CO2量が少ないディーゼルエン ジンは温暖化などの環境問題が叫ばれる近年、一層注目されています。 しかし日本では、トラックなどの旧型ディーゼルエンジンを搭載している車を締め出すなどディーゼルエン ジンには否定的です。トラック以外の乗用車などでも、ほとんどディーゼルエンジンの車は生産されていま せん。日本の場合、高度経済成長期の排ガスによる公害などのマイナスイメージが先行して、ディーゼルエ ンジンの長所にまで目を向けられていません。日本がディーゼルエンジンに否定的な一番大きな要素は、排 出ガス中のPM(粒状物質)・黒煙・窒素酸化物等の大気汚染物質の排出です。一昔前の排ガス規制が甘かった 頃のディーゼルは確かに気になりますが、最近のディーゼルエンジンは触媒等の改良によってガソリン車と 変わらないほどにまでクリーンになっています。



・なぜヨーロッパのツーリングカーを目指すのか・

ヨーロッパと比べて、ディーゼルエンジンやバイオエタノール燃料などの技術が進んでいない日本では、そ れをモータースポーツに投入すると言った所にまで到達していません。もし、そんな技術があったとしても ガソリン主体の日本では、どことなく性能的に見劣りするように思われてしまうでしょう。モータースポー ツ=ガソリンのイメージの日本では、それと違った道を探るのはリスクが高いのです。 しかし、車社会の一部を成しているモ−タースポーツとしても、環境問題や経済性を無視していられる時期 はすでに終わっていると思います。70〜80年代にレースで強かった車がよく売れたのは、その"強さ・速さ"が時代の ニーズとマッチして人気を博したからですが、現在の日本で、レースで速い車が売れているか…と言うと、 あまり売れている車はありません。モータースポーツと一般市場とのつながりは非常に薄くなっています。 ハイテク技術を盛り込み、凄い改造を施したマシンが激しい戦いを繰り広げているにもかかわらず、それが 一般市場に反映さてれいないと言うことは、世の中のニーズと合っていないと言う事になります。先に例に 上げたスーパーGTでは、ベースとなる車は最低でも400万円、高い物では1000万円を超えるような物 もあり、不景気と言われる近年では、あまり簡単に手を出せるような物ではありません。一方、ヨーロッパ のツーリングカーレースでは、高い物で500万円、安い物では200万円台からあるような車をベースに レースに参加しています。さらに、そこに参加してくる車にはディーゼルエンジンの車やバイオエタノール の車など、環境的かつ経済的な車があり、それらがいい性能を持っていて好結果を出している…これで、ガ ソリンエンジン搭載車との比較も出来ますし、レース界だけでなく車社会・一般社会にディーゼル車・バイ オエタノール車の有能さをアピールし、少なからずヨーロッパでの高性能ディーセル車等のエコカーの普及に役立って いると思われます。 つまり、世の中のモータースポーツに対するニーズは、高性能・ハイパフォーマンスなだけでなく経済的で エコロジーな車を使ってレースをすると言う事に変わって来ているのではないか思います。
そういう経済的で環境にも優しい 車が日本国内のレースで活躍する事ができれば、市場でもその車が売れるようになり、エコカーに対する評価も上がるかもしれません。 ディーゼルエンジンなどの技術開発では遅れを取っている日本ですが、ソーラーカーや燃料電池車、ハイブリッドカー などの技術はむしろ世界をリードしてます。こう言う"ハイテク"なエコカー技術もモータースポーツに役立てる ことでよりハイレベルな開発が出来るのではないと思います。

そんな先進的な、ヨーロッパのツーリングカーレースに参戦し、さまざまなノウハウを日本へとフィードバ ックするのが目標であり任務であると思っています。未だかつて、日本人がヨーロッパのツーリングカーレ ースのトップレベルで戦った事は一度もありません。F1はすでに日本人が参戦し始めて20年近く経ちます が、ツーリングカーでは1人もいません。日本人にとってはほとんど未開の地ですが、そこを切り開いて行くのが僕の使命であると思っています。

そしてこの事は、日本のみならず、これからのアジアの国々の発展においても大きな意味を持っていると思 います。アジアには中国とインドの人口世界第1位と第2位の大国があります。今後のアジアの発展はこの2 ヶ国が中心となっていくでしょう。そして、発展と共に自動車の普及率も一気に上がってくのではないかと 思われます。車社会・車文化が発達していけばモータースポーツへの関心も高まって行くと思います。現に 2004年から中国でF1GPが開催されるようになり、インド・シンガポールもF1を誘致しようとしています 。車文化が広まり、モータースポーツが盛んになり始めるその時に、環境に優しい車でレースに参加し、性 能が良い事をアピールできれば、過去、日本がそうであったように、その車に乗ることがステイタスになっ て行くのではないかと思います。一旦、日本のようにガソリン車>ディーゼル車のようなイメージが付いて しまうと、それを覆すのは大変な事になります。もし、最初からエコカーに 対する良い面を積極的に発信していけば、人口が多い国ですから、これが地球環境に与える影響は大きいと 思います。現段階でも中国・インドはCO2排出量で世界2位と世界5位ですから、これ以上増やさないため にもモータースポーツからも環境保全に取り組んでいく必要があると思います。当然これらの事はCO2排出量 世界4位の日本でも取り組まなければいけない事です。



これが、ヨーロッパの本場のツーリングカーへの参戦を目指す理由です。何よりも自分自身がヨーロッパの ツーリングカーレースが好きなのも大きな理由です。でもそれ以上に、現状の、特に日本のモータースポーツは 変わらなければいけない時期に来ていると思います。僕一人が行った所で何も変わらないかも知れませんが 誰かが行かないと、扉を開く事は出来ません。新しい扉を開けるためにも、全力で戦っていきます。